8『焦燥』


隣の個室に居た男はいつの間にか姿を消していた。
秀美は叶に連れられ、通学路の途中まで送ってもらった。

―顔が上げられない。
あんな醜態を叶の前で晒してしまった。
声だって・・外に漏れていたかもしれない・・。

秀美は重い溜息を零しながら、個室での事を猛反省していた。

「秀美!?」
後ろから突然腕を掴まれた。
後ろによろけた秀美は、転ぶことなく厚い胸板に抱きとめられた。

「伊積?」
秀美を抱きこんだまま、叶を睨み上げていた。
普段の秀美であれば直ぐにでもその腕を振りほどいたであろう。
しかし今日は違った。少しだけぽやっとした顔で聖を見上げている。

「秀美に何したんだ?叶。」
聖はギリギリっと歯を食いしばり、秀美を抱く手に力が入る。
睨まれている叶は、面白そうに二人の様子を眺めているだけだった。

「何って?何だろうね?ひでみちゃん。」
聖の怒りをものともせずに話を秀美に振った。
突然二人分の視線を浴びた秀美の肩がぴくっと反応する。

「秀美。」
名前を呼ばれただけなのに、聖のその目に問い詰められた。

「伊積には・・・関係ない事だ。」
秀美は聖と目を合わせないまま、歯切れの悪い返事をした。

「行くぞ。秀美。」
これ以上、何を聞いても答えてはくれないだろうと判断した聖は秀美の手を取った。

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