今日は、塾も生徒会もない。何も考えたくない日に限って予定は空いてしまうものだ。
予定の入っていない放課後は、無駄に長いと感じた。
秀美は家に帰る気になれず、図書室で今日の授業の復習をしようと、教科書を開いたところだった。
ペンを握り、教科書を眺めるが全て頭を通り抜けていく。
叶との今朝の出来事が秀美の中を占領する。
考えてはダメだと思えば思うほど頭から離れなくなってしまう。
叶への恋心と不信感。
2つの感情が秀美を悩ませた。
叶が最後に囁いた名前は聖だったのか。
秀美が叶に似ているから聖は秀美を好きになったとも言った。
―どういうことだ?・・・ひっかかる。
秀美の胸に焦燥が込み上げる。
秀美を中心に渦巻いているはずなのに。
まるで、秀美は蚊帳の外に放り投げだされている気がした。
静まり返った図書室に突然、秀美の携帯が鳴り響いた。
秀美は慌てて鞄の中から携帯を取り出す。
ディスプレイを見ると知らない番号だった。
普段の秀美なら絶対に取らないが、何か胸騒ぎがした。
「はい・・・瀬ノ尾です。」
電話の向こうの人物を探るように、声を発した。
「瀬ノ尾?って秀美?」
その声は叶だった。
途端に胸が跳ね上がった。
―なんてタイミングだ。
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