6『誘惑2』
叶に会ってから妙な違和を感じた。
それは自分の勘違いであってほしいと切に願った。
あんなに、恋焦がれた相手だったのに。
何故だろう。このもやの掛かった感じは。
叶は確かに綺麗で魅力的な人だった。あの手も彼のもので間違いはなかった。
彼の容姿は確かに理想的だった。だけど・・違う。秀美は胸にのこるしこりを抱えたまま学校に向かった。
秀美は、彼に出会ってから初めて車両を変えた。
今日は、彼に会いたくない。
「・・・!?」
何時も乗る車両の隣。
人の波に押され、ドア付近の隅っこに追いやられた。
人の波というよりも、誰かに押し込められた感じがした。
『おはよう。ひでみちゃん。今日は何時もの場所に乗らなかったんだね。俺に会いたくなかったのかな?』
秀美の後ろから聞こえた声に身体が強張った。叶だ。
息だけの掠れた声で耳元に囁く。
「そんな・・こと。」
ない、と言い切れない。
『酷いな・・俺が気に入らなかったの?君のタイプじゃなかった?』
意地悪な笑い声が聞こえる。
この人は面白がってる。自分がうろたえる姿を見て楽しんでいるようだった。
『続き・・しようか?』
秀美の耳の後ろをねっとりと舐めた。耳は弱い。妖しい声が漏れてしまいそうだった。
―あぁ・・今日もされるんだ。
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