3 『接近』


彼を確かめたい。
秀美の答えは決まっていた。彼が、もうすぐ会えると言った。
彼と聖の香り、彼の言葉。
もしこれが彼の仕掛けたことならば、秀美は彼の思惑に乗ってやろうと思ったのだった。

―しかし、どうやって近づこうか。あんなことがあった後だし・・口を聞きたくないな。
・・・。

「なぁ、聖。お前って兄弟いたっけ?」
見た目は派手で、ちょっと軽そうな書記を務める斉藤。
「なんで?」
ペンを指で器用にクルクル回しながら斉藤に向き直った。

「駅でお前に似た奴見かけたんだけど。違うのかな?」
とぼけた顔をして、適当な嘘をつく斉藤。
文化祭の決算報告の書類に目を通しながら、『演技派だな』と秀美は感心していた。

「さぁな。嘘付いてるお前に答える義理はない。誰に頼まれた?」
斉藤の完璧な演技にすら聖は騙されなかった。

「嘘?本当に見かけたんだけど。やっぱり違うのか。ならいいや」
図星を指されて内心、慌ててる斉藤だったが表面に出さないように必死に顔を取り繕っていた。

「気付いてないのか?お前が嘘つくと右の眉毛が上がる癖が出るんだよ。」
聖はペンで自分の右の眉を突く。
斉藤ははっとして、自分の右眉を抑えた。

確かに眉が上がっている。


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